本研究会ではPrognostics and Health Management(PHM,健全性予測及び管理)を調査研究対象とする。PHMは社会インフラや製品といったシステムと構成要素の故障を検知,故障箇所の特定,故障原因の診断,残存寿命を予測し,健全性を維持するための適切な意思決定を行うことを目的とした学問分野である。PHMは古くから製品開発などにおいて重要なテーマであったが,近年,IoT等の計測・通信技術の発展により利用可能なデータが増加したこと,第3次AIブームを受けIT企業やアカデミアを中心にオープンなツールが整備され,データ駆動型機械学習を利用する敷居が下がったことで,大学,産業界,また研究機関において取り組みが増えてきた。
2008年にIEEE Reliability Societyにおいて最初のPHMに関する学会International Conference on Prognostics and Health Management (ICPHM)が開催された。2009年には米国でPHMに関する学会PHM Societyが発足し,年次大会の開催やジャーナル誌の出版などが行われている。2012年には欧州で最初のEuropean Conference on the PHM (PHME)が,2017年にはアジア太平洋地域で最初のAsia Pacific Conference of the PHM (PHMAP)が韓国で開催された。以来,PHMAPは2019年に中国,2021年には韓国と2年おきに開催されており,韓国,中国にはPHMに関する学会が発足,活動している。
日本でもPHMに関する取り組みは以前より行われてきている。PHMはシステム,またその構成要素すべてが対象であるため,PHMを研究・利用する分野は多岐に渡っており,航空宇宙ではもちろんのこと,トライボロジー,土木,機械,化学工学など領域毎に個別に研究が進められている。特に近年のPHMの手法関しては人工知能・機械学習を領域とする研究者が中心となって研究が進められている。ただし,これら領域間の横の繋がりが希薄であるというのが日本の課題であることから,総合工学である航空宇宙を対象とするJSASSにPHMを軸にした分野横断的活動拠点を設置し,領域間の定期的な情報交換やPHMAPを開催することで,PHMに関する日本の技術力強化を目的とする。
代表者:矢入健久 (東京大学),幹事:堤誠司 (JAXA)
※PHM研究会は2024年6月をもって活動を終え,今後は人工知能学会をハブとしての研究会活動を継続することになりました。後続の研究会のサイトはこちら。