航空宇宙技術遺産一覧
認定技術遺産名称 | 認定理由/認定証のお贈り先 |
二宮忠八の動力飛行研究 | 認定理由:
認定証のお贈り先: |
STOL 実験機「飛鳥」で実証した 低騒音短距離離着陸技術 |
認定理由:
STOL実験機「飛鳥」はUSB(Upper Surface Blowing)方式の短距離離着陸実験機である。ターボファンエンジンを主翼上面に配置し、フラップに沿ってエンジン排気を下方へ曲げることでSTOL性を確保すると共に、地上への騒音を大幅に低減した。3年半にわたる飛行実験で、パワードリフト機の空力・飛行性を実証する世界的にも貴重なデータを取得した。同機が我が国の航空技術の発展と人材育成に果たした役割は大きい。
認定証のお贈り先: |
日本初の純国産ジェットエンジン 「ネ-20」技術 |
認定理由:
ネ-20は、日本初、世界でも最初期の実用ジェットエンジンであり、我が国の民間用を含むジェットエンジン開発の先駆けとなった。海軍航空技術敞は、従来の研究成果を元に、ドイツから入手したわずかな設計図類を参考に、独自にジェットエンジン(ネ-20)の設計、試作を行い、設計作業開始からわずか8ヶ月後の1945年8月7日に、ネ-20を搭載した橘花が高度600m、飛行時間12分間の初飛行に成功した。以上より、日本初の純国産ジェットエンジンと称するにふさわしい。
認定証のお贈り先: |
「はやぶさ」による世界初の 小惑星サンプルリターン技術 |
認定理由:
「はやぶさ」は,地球圏の月以外の天体において、着陸と離陸および試料採取と回収にいたるシーケンスの実施に世界で初めて成功した。これにより我が国は、イオンエンジンや光学航法を用いた惑星間航行、小惑星近傍誘導制御、惑星間軌道からの耐熱カプセルによるサンプル回収等の深宇宙探査技術面で世界の第1線に立った。一連の運用の中で遭遇した異常事態にも、卓越した運用技術で対応し全体シーケンスを完結した。理学分野では、当時世界最高解像度の表面画像を含む各種近傍観測データならびに回収サンプルの分析により、小惑星の構造・組成・生成過程等について画期的な知見をもたらした。本技術により、物質を地上設置の大型/高性能分析装置によって測定する「サンプルリターン観測方法」を確立し、宇宙科学の発展に大きく寄与した。
認定証のお贈り先: |
技術試験衛星Ⅶ型で実証した世界初の 自動自律ランデブ・ドッキング技術 |
認定理由:
技術試験衛星Ⅶ型(ETS-Ⅶ:「おりひめ・ひこぼし」)のランデブ・ドッキング(RVD)実験系は完全自動RVDを世界に先駆け開発・実現した。完全自動RVDを行うためには自動・自律RVD、安全性の高いセイフRVDの実現が不可欠となる。前者に対しては、センサの計測データより相手宇宙機との相対位置や接近速度等を把握、接近/離脱の軌道を自動生成し、飛行制御、ドッキングを行う一連の機能を実現した。ドッキング精度も四半世紀経過後の今も世界最高精度である。後者に対しては、接近軌道設計上の工夫、異常発生時の自動離脱機能、機器の冗長設計、安全管理プログラム等により安全性の高いセイフRVDを実現した。ETS-Ⅶ RVD系により確立した技術は宇宙ステーション補給機HTV、次世代のISS補給機HTV-Xにも適用されており、今後の軌道上サービス宇宙機や月補給機等への適用も期待される。
認定証のお贈り先: |
月の縦孔・地下空洞を発見したSELENE「かぐや」地形カメラによる 観測ならびにデータ解析技術 |
認定理由:
SELENE(愛称「かぐや」)搭載の地形カメラの撮像データの解析により、月面基地として最も有利な条件を有する地下空洞へと続く縦孔を世界で初めて発見した。SELENEは我が国初の本格的な月周回観測機であり,地形カメラは月の全球にわたる 10m/画素の解像度を持つ立体視画像・可視画像データを撮像した。最大 50Gbit/日にも上るデータを地上へ効率的に伝送するため,DCT 圧縮方式の採用や、符号化テーブルや量子化テーブルの工夫が行われた。こうして月全球について取得された様々な太陽光角度における膨大な観測データについて,計算機による自動認識技術を開発することにより,月面最大級で今後の基地利用・科学探査において最も重要な,月地下の空洞に通じる縦孔三つを発見することに成功した。
認定証のお贈り先: |
複合材コキュア一体成形主翼構造技術 |
認定理由:
F-2の複合材コキュア一体成形主翼構造は、防衛省技術研究本部(当時)による主翼一次構造への複合材適用の研究において三研翼(主翼桁間構造)として1987年に試作評価された後、実機の主翼構造に世界で初めて適用された技術である。F-2は、主翼・尾翼を中心に複合材を機体重量の約18%に適用し、約250kgの軽量化に成功すると共に、コキュア一体化による部品点数および組立工数の削減による低コスト化に貢献。その後、米国に技術移転されている点は特筆に値する。更に、F-2の複合材コキュア一体成形主翼構造の開発経験は、Boeing787複合材主翼構造の製造分担獲得にも寄与している。 認定証のお贈り先:
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民間超音速機実現のための空気抵抗低減設計技術実証(NEXST-1) | 認定理由:
小型超音速実験機「NEXST-1」プロジェクトは、コンコルドの経済性を大幅に改善する先進空力設計技術の開発を目的とし、1997年から2005年にかけて科学技術庁航空宇宙技術研究所(現JAXA航空技術部門)によって実施され、大きな後退角を有する超音速機主翼では世界初となる摩擦抵抗低減のための自然層流翼設計が新たに開発され、その適用効果の飛行実証に世界で初めて成功している。 本成果は、中核となる自然層流翼設計技術を特許化し、設計ツール及び飛行実験データ等を含む「データべース」の構築とその国内関係機関への提供を通して、我が国航空産業界の技術力向上へ貢献することで、将来の次世代超音速旅客機の国際共同開発における我が国のポジショニング確保に影響を与え、その効果が示されている。日本航空宇宙学会技術賞が2件授与されると共に、米国研究会議(NRC)の2001年の報告書で「NEXST-1の自然層流翼設計」が取り上げられ、海外でも注目されていた点は特筆に値する。 認定証のお贈り先: |
戦後初の国産旅客機YS-11 |
認定理由:
YS-11は、戦後7年間の航空に関する活動禁止の後、日本で初めて設計、生産された与圧キャビンを持つ中型輸送機であると共に、型式証明を取得した国産旅客機である。全180機が量産され、うち78機が輸出され外貨獲得にも貢献。また当初の機体不備などが解消された後は、世界の最新鋭機と比較しても極めて高い運航率を誇る機体となり、国内旅客機としては2006年まで40年以上運航された。これらYS-11シリーズの開発経験や運用実績は、その後のXC-1の開発などに活かされており、戦後の航空機産業の空白後にふたたび航空機設計の基礎技術を確立、蓄積したエポックメイキングな製品である 認定証のお贈り先:
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PS-1飛行艇のSTOL技術と耐波性技術 |
認定理由:
PS-1飛行艇は、新明和工業が1960年代に開発した飛行艇で、STOL技術と耐波性技術による高い離着水性能を特長とする。波高3mでも離着水可能な性能は、現在でも世界一を誇る。PS-1は大型機としては世界で初めてBLC(Boundary Layer Control)を実用化し、約50ktという極低速飛行を実現した。これは圧縮空気を翼上面から吹き出し、大フラップ角でも剥離を抑制して揚力を維持するものである。また、着水時の衝撃を緩和し、水飛沫による損傷を防ぐため、鋭いV字断面形状の艇体、着水に適した機体構成(高翼、T尾翼)、及び独自の溝形波消し装置などの飛沫制御機構を採用した。PS-1の高い性能は、その後継機US-1、US-2に引き継がれ、1000名以上の人命救助に貢献した。 認定証のお贈り先: |
準天頂衛星と静止衛星による高精度衛星測位システム |
認定理由:
準天頂衛星システム(QZSS)の最大の特徴は準天頂軌道と静止軌道を組み合わせ、少ない衛星数で特定領域における衛星測位を可能にしたことである。QZSSの提供する主要なサービスには「測位補完サービス」、「測位補強サービス」がある。準天頂軌道を採用したことにより、天頂付近に準天頂衛星が少なくとも1機確実に見えることとなり、GPS等の地球周回型の測位衛星のみを使用した場合に比べ測位の安定性(測位率)が大幅に向上する。準天頂軌道の採用による「測位補完サービス」提供を前提とした測位システムの構築・実用化は世界初となる。 「測位補強サービス」は測距信号に含まれる測距誤差を補正する補強情報を準天頂衛星より放送し、ユーザ端末でその補強情報を基に補正処理を行い、ユーザの高精度な自己位置決定を可能とするサービスである。変調方式の工夫によりGPSを上回るデータレートを実現し、測位信号のみでセンチメータ級の高精度測位を可能とする「測位補強サービス」の提供・実用化も世界初である。 認定証のお贈り先: |
ソーラー電力セイル航行技術実験機 IKAROS |
認定理由:
ソーラー電力セイル航行技術実験機IKAROSは、2010年5月21日に打上げられ、4つの世界初の軌道上実証にいずれも成功した。具体的には、1)14m四方のセイル膜面のスピン展開、2)セイル上の薄膜太陽電池による発電、3)セイルで太陽輻射圧を受けることによる加速、4)セイル上の液晶デバイスでセイルの一部分の反射率を変化させることによるセイル全体姿勢制御・加速方向制御である。 これにより、大型膜面を展開して、光子加速により推進剤なしで航行するソーラーセイル技術、および、軽量大面積の太陽光発電を行い、外惑星領域でも高性能なイオンエンジンを駆動可能にするソーラー電力セイル技術をどちらも世界で初めて獲得した。より遠く、より自在に、より高度な宇宙探査活動を可能とする先進的かつ画期的な功績をあげた。 認定証のお贈り先: |
日本の固体ロケット技術の礎を築いたペンシルロケット |
認定理由:
ペンシルロケットは、太平洋戦争後7年間の航空禁止令を経験した日本が人工衛星打上げを行えるようになった、固体ロケット技術開発の礎である。1952年から、東京大学生産技術研究所 糸川英夫教授の指導の下で固体ロケット開発が進められた。その最初の実験用ロケットとして、長さ230mm、直径18mmのペンシルロケットが製造され、1955年4月には、現在の国分寺市にて水平発射によるロケットの飛翔に関する各種データを取得する実験が行われた。その後、実験は現在の千葉市にあった東大生産技術研究所に場所を移して継続され、そこでは2段式や大型のペンシルロケットも用いられた。同年8月には、秋田県道川海岸での斜め発射実験にて、到達高度600m、水平距離700m、飛翔時間16。8秒の飛翔を実現し、次の大型化されるロケットへと開発を引き継いだ。超小型の固体ロケット開発から開始して人工衛星打上げを達成したという日本独自のロケット開発プロセスにおいて、ペンシルロケットはその出発点となるものでる。 認定証のお贈り先: |
数値風洞 Numerical Wind Tunnel (NWT) |
認定理由:
数値風洞は航空宇宙技術研究所(2003年に宇宙航空研究開発機構に統合)と富士通株式会社が共同開発した世界初の分散主記憶型並列ベクトル計算機である。1993 年11月から1995 年11月の間にスーパーコンピュータTOP500 において世界最高速を記録し、1994~1996 年にはGordon Bell賞を連続受賞するという歴史的な記録を残している。NWTの導入により、本格的な並列シミュレーションを行うことが可能になり、乱流シミュレーションなどの基礎研究から小型超音速実験機NEXSTや、極超音速飛行実験機HYFLEX、国産宇宙往還実験機HOPE-Xなど航空機・宇宙機開発に幅広い分野で用いられ、その後の航空宇宙分野への数値シミュレーション技術の適用を実用化するとともに、航空宇宙工学の発展に大きく貢献した。 認定証のお贈り先: |