部門委員

部門委員長挨拶

第50期部門委員長

 

首都大学東京 システムデザイン研究科/専攻

航空宇宙システム工学コース/域 教授 竹ヶ原 春貴

 

 従来、電気推進は衛星の軌道/姿勢制御や小惑星探査などの主推進系として用いられてきたが、近年の大型衛星の大電力化、ミッションの多様化、新たなミッションの創出,超小型衛星の増加、増大するデブリへの対応の必要性などに伴い、それぞれのミッションに対応できる多様な加速過程、推進性能を持つ電気推進の適応が検討されている。

 例えば、米ボーイング社製のオール電化衛星の打上げ、NASAが国際協力を呼びかける電気推進による小惑星捕獲ミッション (ARM) での日本への協力依頼、一方ISECG(国際宇宙探査協働グループ)により大電力電気推進の必要性が示されるなど、世界的にも電気推進技術への注目が高まり、欧米でもその研究開発が活発化している。我が国においても、2011年産学官連携コミュニティ「大型In-space Propulsion (電気推進)ワークショップ」を立ち上げ、 2013 年にはARMへの貢献、国産オール電化衛星の実現に向け、電気推進の一種であるホールスラスタを重点候補とし、産学官協同で精力的に研究開発を進めている。オール電化衛星はイオンエンジンやホールスラスタなどの電気推進系を搭載した衛星で、ロケット分離後の静止軌道投入、姿勢軌道制御に電気推進系を使用する。従来の化学推進系を搭載した衛星では、衛星質量中、推薬量が最も大きな割合を占めており、これを軽減しその分を通信ペイロードに割り当てれば、打ち上げコストに影響する衛星質量を抑えて、多数の通信機器を搭載できるようになりる。また、打上げ能力によっては衛星2機同時打上げにより、大幅な打上げコストの削減も可能になる。このように比推力が大きい電気推進系を採用することで、推薬の質量を大幅に低減することが可能となる。一方、低推力の電気推進では、静止軌道投入までの軌道遷移期間が長期化し、サービスインが遅くなるという課題があり、電気推進系の大推力化は、軌道遷移期間を短縮し競争力強化を図るうえで非常に有効となる。

 以下のその幾つかの例を挙げる。

 2015年3月にSpace X社のFalcon 9 により打ち上げられたEutelsat 115 West BとABS-3Aは、スーパーシンクロナス軌道から静止軌道への軌道遷移を行い、1ヶ月ほど前倒しで静止軌道に達成し、大幅な打上げ費用の削減が可能なオール電化衛星が実証された。

 この2つの衛星はイオンエンジンを用いたボーイング社製のオール電化バス702SPを採用している。これに続いて、2016年6月中旬にも702SPを用いた通信衛星Eutelsat 117 West B とABS-2Aが打ち上げられ、静止軌道への軌道遷移の後に2017年1月より本運用になっている。これらを受けて、今後の静止軌道への投入において大型電気推進機を用いるオール電化衛星の流れは加速していくと予想されている。

 このようにオール電化衛星は、我が国の静止通信衛星が国際競争力を持つためには必要不可欠であり、その全体像を把握し、衛星システム全体を俯瞰的に認識することはきわめて重要である。日本航空宇宙学会誌8月号(Vol. 65, No. 8)からは、「大電力電気推進が拓くオール電化衛星」と題して、・全電化軌道遷移がもたらすメリット ・全電化衛星の世界動向 ・技術試験衛星9号機によるオール電化衛星の開発 ・技術試験衛星9号機によるオール電化衛星の開発 ・電化衛星向けホールスラスタの開発状況 ・5 kW級ホールスラスタRAIJINの共同開発 ・ホールスラスタの研究開発と将来ロードマップ に関し、特集が始まっている。この特集では、オール電化衛星の長所短所、構成要素の解説、各国の動向および日本における現状、さらに将来への展望が様々な所属の著者の、産学官のそれぞれの視点から一つの特集としてまとめられている。ご一読頂けたら、幸いである。

 また、2017年の第61回宇宙科学技術連合講演会(平成29年10月25日(水)〜27日(金)、新潟市朱鷺メッセ)においては、「OS-20小型推進系が切り拓く超小型衛星の未来」として、電気推進、化学推進の超小型衛星搭載に向けた研究開発状況に関するオーガナイズドセッションが開催された。

 同セッションでは・ハイブリッドロケット・60%過酸化水素水・レーザ燃焼制御固体マイクロスラスタ・レジストジェットスラスタ・ 小型イオンスラスタ・シリンドリカル型ホールスラスタ・エレクトロスプレースラスタ・カーボンナノチューブカソード・レーザ小型プラズマ推進機・イオン液体推進機・パルスプラズマスラスタ・真空アーク推進機・超小型宇宙ミッションにおける推進系利用・衛星コンステレーションと小型推進系への期待などが取り上げられた。今後、超小型衛星のフォーメーションフライト等、運用の高機能化には推進系がますます不可欠な存在と考えられ、本OSでは電気推進機の超小型衛星への対応を検討している。

 

部門委員会設立の経緯

 このように国際的に電気推進への関心・需要が高まり、実用化されつつある現在、我が国の航空宇宙関連の唯一の学術団体である本学会に、電気推進および将来の先端推進の専門部門を設けることは、内外の研究者・技術者の情報交換の場として役立つだけでなく、今後の先導的宇宙推進の在り方を提示し、宇宙開発・活動の更なる発展に貢献できるものと考えている。

 そこで、以下の方々を発起人(代表:竹ヶ原春貴(首都大学東京))、主要メンバーとして、日本航空宇宙学会に当部門の設立申請を行った。

発起人
竹ヶ原 春貴(首都大学東京) 小紫 公也(東京大学)
田原 弘一(大阪工業大学) 宮坂 武志(岐阜大学)
主要なメンバー
國中 均(宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究所)
船木 一幸(宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究所)
西山 和孝(宇宙航空研究開発機構
宇宙科学研究所)
窪田 健一(宇宙航空研究開発機構)
安藤 晃(東北大学) 中山 宜典(防衛大学校)
佐宗 章弘(名古屋大学) 山本 直嗣(九州大学)
各務 聡(宮崎大学) 小泉 宏之(東京大学)
堀澤 秀之(東海大学) 鷹尾 祥典(横浜国立大学)
西田 浩之(東京農工大学) 横田 茂(筑波大学)
渡邊 裕樹(首都大学東京) 後藤 祥史(三菱電機(株))
山崎 拓也(三菱重工業(株)) 河内 宏道(NEC(株))
田代 洋輔
((株)IHIエアロスペース)

幸い、理事会にて承認を受けることができ、部門発足のはこびとなった。